書評「やめるときも、すこやかなるときも」窪美澄
皆さま、こんばんは!
息子です。
愛してやまない小説家、窪 美澄さんの作品
「やめるときも、すこやかなるときも」
を読み終えました。
①あらすじ
毎年12月のある時期に声が出なくなる家具職人の壱晴と、
印刷会社に勤めながら両親を養う男性経験に乏しい会社員の桜子。
共に32歳の2人はあるきっかけで一夜を共にするが後日仕事を通じて再会し…。
様々な苦悩を抱えながらそれぞれの人生を歩む2人が、痛みを分かち合い、乗り越えて歩み寄っていく。
人を愛することとは、家族とは、人生における幸福とは何かを読者に訴えかけてくる作品です。
②敬愛する窪美澄という小説家と、代表作「ふがいない僕は空を見た」
あらすじだけですと、
何だかありふれた小説作品ですよね。
本作の書評の中で小説家の山本文緒さんはこうおっしゃってます。
「人間の交わりとは体の交わりと切っても切れない、そのどうしようもなさを描く。それが窪作品だった」と。
そうなんです。窪さんの作品には兎に角切ない背景を持つ人物同士の性描写が多く、読んでいて辛いのオンパレード。
それでも読後は生きることの喜び、悲しみ、痛みが一気に押し寄せ、毎朝自らの目で世界を見ることができ、大切な人が今生きていることに感謝せずにはいられなくなります。
私は日本文学科に在籍していた大学生の頃に窪さんの魅力に取り憑かれ、読後はその世界観から抜け出すことにいつも必死でした。
窪さんを「ふがいない僕は空を見た」でご存知の方もいらっしゃるのではないでしょうか。2012年に映画化もされましたね。
一回り以上歳上の主婦と週に数回コスプレセックスをする男子高校生。そして、それに気づいている同級生の女子高校生。
好きでも嫌いでもない男と結婚をし、愛を感じないセックスを重ね、その姑に不妊治療を迫られる嫁。
父親が自殺し母親には見捨てられ、痴呆の祖母と団地で2人暮らしの男子高校生。そしてバイト先のホモセクシャルだと噂の先輩。
シングルマザーで子育てをしながら助産院を営む母親。などなど。
それぞれのヘビーな物語がしっかりと繋がる連作で、読後は本当に本当に、
「はぁぁあぁぁぁ…。ああぁぁぁぁああ…。」となります。
「性」と「生」というずっしりとしたテーマを軸に、そのテーマを登場人物たちがその人生を持って語ってくれる。
私は窪さんの作品には一貫してそんなイメージを抱いています。
③「やめるときも、すこやかなるときも」は一味違う。
しかし今回の作品には少し驚かされました。
冒頭の山本文緒さんの書評をもう一度見てみると。
「人間の交わりとは体の交わりと切っても切れない、そのどうしようもなさを描く。それが窪作品だった」
「それが窪作品だった。」
そう、過去形なんです。
書評はこう続きます。「しかし本作はその描写を注意深く割愛して、心を交わすことに焦点を当てた。」
本作には性描写が無いんです。
○○と言えば!の○○が無いんだから驚きました。
性描写が苦手な方にもオススメできます。
主人公2人の心情を丁寧に表す文章が多く、今までのどの作品よりも、とっぷりとその世界観に浸ることができました。
壱晴の家具作りには一途なのに女性にだらしない感じや(下半身がだらしないという描写には笑いました。)、実はそこには100人が100人納得するわけではない理由があったりする感じも、切ないけれど少し共感?してしまったり。
それを知りつつ「この人と結婚する」と勝手に決めて近づいていく桜子には、会社が倒産し「良き父親から悪い父親に変わってしまった父親の良い例」みたいな父親と、そんな父親に耐える母親がいて。
妹は授かり結婚し家を出て、自分とは対照的な生活を送っている。自分はこのままどうなってしまうのか。悩みに悩むわけです。
桜子の父親は最低ですが、私は最後の最後で彼の悲痛な叫びに泣かされました。
桜子のお父さん、本当に辛いです。
桜子の家庭が何だかとてもリアルで。
それでも、これからこの家族は良くなる!と思いたくなる結末でした。
2人の男女の恋愛物語というだけではない、中身の濃い作品です。
私の両親は幼い頃に離婚しているので、「家族」というものに対する想いが人一倍強いからそう感じるのかもしれません。
窪さんの実のお父様も会社経営に失敗?されているとか。
実話なのかもしれませんね。
様々な家族の形が詳細に描かれていることが、本作の大切な要素だと感じます。
こんな世の中だからこそ、家族の在り方、生き方、見つめ直してみませんか?
息子でした。
息子のインスタグラムアカウントです。
→www.instagram.com/arou_tatras/
油絵画家の父 吉野光 公式サイトです。